最近ではとんと見なくなったようだが、わたしが子どもの頃にはよく、国賓(最近来てないだけ??)が来るとテレビで、「宮中晩餐会」なるものの中継をやっていた。ところがなぜか一番見たかった部分、すなわち料理の映像は一切なく、よくてもメニューがフリップで出されるだけだったのが幼心に痛烈な隔靴掻痒感を残したものだった。やんごとなき方々はどんなものを召し上がっていらっしゃるのか(笑)。そんな興味は大人になっても一定続いているようだ。
『大統領の料理人―厨房からのぞいたホワイトハウス11年』 ウォルター・シャイブ/著 田村明子/訳 KKベストセラーズ 2008年
題名だけ聞いたときには、一瞬『金正日の料理人』
かと思ったが、もちろん違って、著者は主にクリントン政権の時代にホワイトハウスでシェフを務めた人。ブッシュ大統領の一期目まで務めたが、ついに「ホワイトハウス」と袂を分かつことになる。そこのいきさつも何やら興味深くはあるのだが、着任の日から、ヒラリー夫人の意向とぴったり沿った形で、厨房の新しいシステムや動かし方や、新しい料理を作り上げていく過程がすばらしくエキサイティングだ。特に「ミレニアムの大晦日」の、シェフ率いる厨房スタッフの奮闘ぶりは圧巻だ。こんなふうに働いてみたい、と思ってしまうほど。
1994年6月13日に、明仁天皇を迎えて行われたステートディナーには、それまでホワイトハウスで長い間守られてきた伝統が二つ覆されたそうだ。一つはメインディッシュを肉ではなく魚にしたこと。もう一つは、魚料理に白ワインではなく、オレゴン産のピノ・ノワール、つまり魚料理に赤ワインが供されたこと。
魚にピノ。この組み合わせは以前に参加した、オレゴンの生産者ディナーで初めて教えてもらって、実際に違和感なくとてもよく合ったのが印象的だったのでよく覚えている。なので上記の話を大変興味深く読んだ。
鬼気迫るのが、政権が移ってすぐに起きた2001年9月11日の記述だ。スタッフやシークレットサービス、警備のためにホワイトハウスに、どんどんどんどん集まってくる軍人たちや警察のために、シェフは一日中食事を出し続けた。その数700人から900人。
「ゲイリーは「まだ食べ物はあるか?」と聞き続け、私は「いいから、連れてこい」と答え続けた。
私がシェフの仕事をしていて最も肩身が狭く感じた瞬間は、この日に軍の人事担当者が兵士に昼食を出したお礼を言いに来たときである。私にできたことはごくささやかだったのに、彼らはとても感謝をしていたのだ。
「あなたたちは外を守ってくれている。私は食事を出すだけです。いくらでも好きなだけ食事を用意しましょう」」
非常時であるならより一層、自分の役割に徹底する。自分のできることを懸命になす。この姿勢に感銘を受けたし、胸に迫る「リアル」を感じた。
また、この本にはいくつか実際のレシピが載っていて楽しい。クリントン夫妻の娘、チェルシーが好んだという、「鶏の胸肉をのせたレモンパスタとブロッコリー」は、一度作ってみようと思う(笑)。
『ワインと外交』(新潮新書) 西川恵/著 新潮社 2007年
この本の第8章「ホワイトハウスの饗宴」には主にブッシュ時代のことと、上記の本の著者シャイブ氏のことにも言及があり、合わせて読むとよりおもしろいかもしれない。
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『エリゼ宮の食卓―その饗宴と美食外交』(新潮文庫) 西川恵/著 新潮社 2001年
ファーストレディ、ヒラリー・クリントンが、「少しばかり怖気づいているのを見るのは初めてのこと」と、シャイブ氏に言わしめたのは、1995年にジャック・シラク大統領を迎えて行われたステート・ディナーだった。
美食の国の元首を招く・・・。確かに怖そうだ(笑)。そんな美食の国ではどんな料理やワインが出されているのかを知るにはこの本。出版年は古いが、今でも十分楽しめるだろう。
わたしが読んだのは、この新潮文庫版に先立つハードカヴァーのものだったのだけれども、そちらはもう手に入らないもよう。でもたぶん図書館に行けばあるはず。
さて、冒頭に書いた、宮中晩餐会はですねぇ、昔、再現メニューの載った美しい本を読んだのだけれど、タイトルなどをすっかり失念してしまったため、紹介できず、残念です・・。
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